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Neil Young / Prairie Wind
Harvest」、「Harvest Moon」に続く、ニール・ヤング珠玉の3部作の完結編、それがこの「Prairie Wind」。
「Silver & Gold」がHarvestシリーズの3部作目っていつか言ってなかったっけ?まあ、良いアルバムだったら何でもいいけどさ。

もはや何枚目かなどよく分からない、キャリア40年となるニール・ヤングの新作「Prairie Wind」です。

ニール・ヤング、特集ページを見てもらえると嬉しいのですが、彼は常に変化し続けてきたアーティストです。ある時は激情的に内面を歌い上げ、ある時は誰よりも上手くアメリカの慕情を歌い、ある時はゴッド・オブ・グランジとして歪んだ爆音ギターをかき鳴らす予測不能の愛すべきオヤジであります。 ありとあらゆるジャンルを自分のやりたい様にやってきたニールですが、彼は決して天才ではなくどこか不器用なのです。彼はだれよりもうまく、素朴で、肉感的に「凡庸」を歌にできたアーティストです。その音を続ければ安定だし、固定化したファンも満足できるというのに、そんなことは興味がないと言わんばかりに変貌を続けてきました。それは、彼が妥協を嫌う人物だったというのと、ひどく不器用だったことからだと思います。名声が決定づけられたジャンルの中で進化を続ける、そんなことができる器用さを持ちあわせてなかったのでしょう。

彼の名声が爆発したのは1972年、「Harvest」をリリースした時です。前からBaffalo SpringfieldやCSN&Yやソロでの活動があり、どれも素晴らしいのですが、それらの活動を綺麗にまとめ上げたような完成度を持つこのアルバムは大ヒットし、ニールにとって唯一の全米ナンバー・ワン・ヒットの「孤独の旅路」も収録されています。 が、皮肉にもこの成功によってニールはひどく苦しむことになります。自分とはかけ離れた所で形作られるスター像から逃げ出すように活動をするのですがそのへんはまた今度まとめてみます。

とにかく、「Harvest」はニールにとって特別な意味を持つアルバムで、一般的に最も良く知られているアルバムなのです。これから20年後の1992年に、シンガーソングライターの頂点=ニールヤングとしてニールは「Harvest」の続編的な作品「Harvest Moon」をリリースします。ゆったりと時が流れるような素晴らしい仕上がりで、「これぞニール・ヤングだ!」と喜んだファンも多いそうです。 が、これの前にリリースされたアルバムの作風は超爆音。その前はR&B、カントリー、ロカビリー、テクノ、と彼のキャリアの中でも最も滅茶苦茶な時期を経て、突如の原点回帰。さすがに面食らったファンも多く、「感傷的すぎる」といった否定的な意見もありました。

成熟した大人の男の渋みを見せつけて、今後こういう路線なのかなと思わせながらもやっぱり予測不能なニール・ヤング。どこへ行くのかニール・ヤング。
その後MTVアンプラグドに出演。カート・コバーンの自殺をうけ、(カートの遺書にニールの歌詞「錆び付くより燃え尽きたい」というのが引用されてたってやつね)カートに捧げるレクイエム的なアルバムを作成。映画のサントラを手掛け、思いっきりダウナーなアルバムをリリースしたあと2000年度版Harvestと言われるアルバムをリリース。911に影響をうけたアルバムを作った後に、自身初となるコンセプトアルバム「Greendale」をリリース。
そして、2005年、Harvestシリーズの3部作「Prairie Wind」をリリース。ようやく本アルバムの紹介に入りますが、Harvestの続編と言うだけあって、アコースティックな響きが素晴らしいアルバムとなっています。Harvestを聞いたことがある人でもない人でもきっと気に入ると思います。

ところで、このHarvestシリーズ。いつだって進化をやめないニールがたまに立ち止まるかのようにリリースされるアコースティックなアルバム。これはニールのファンサービスだとか先へ進むことをやめたなどと批判されることはまずない。
ニール・ヤングが予測不能な男と呼ばれ、アルバムの作風が毎回変わっているのは、彼が何に関心を寄せているかがその日次第で変わるからだそうだ。つまり、「Harvest」を出したあとに、レーベルからもリスナーからもまた同じような音を期待されたことは彼にとって苦痛でしかなかったということ。売れるのが嫌だったというわけではなく、その当時、ニールにとってそんな音はもう関心がなくなっていて、新たな挑戦を見いだそうとしていたのだろう。だから、そんなニールがときたま、Harvestの様な音を鳴らし出すのは、ふと、その音に関心を持ったというような雰囲気を漂わせていて、誰も批評なんて無粋なことはしないのだ。不器用な彼を見守るかのような気持ちで彼の鳴らす音に身をゆだねる。ニール・ヤングのベストにHarvestシリーズを挙げる人はほとんどいない。それはこれがニールの休息のようなアルバムだからだろう。激しいテンションのアルバムや完成度の高いアルバムにいくための安らぎの場所だ。下の歌詞を見てみてほしい。

政治的な面においてもニールの言動は予測不能であり、その日次第で関心のあるものが変わるというのがうかがえる。。70年代前半のニールは左翼思想のある反体制派のような歌をうたったりしてきたが、その後に一転して愛国的なものを歌ったりしてファンを驚かせている。その後もレーガン政権をよくいってるような悪く言ってるような歌を歌ったり、ブッシュの「テロとの戦い」を支持しているような発言をした翌年にブッシュ政権への批判をし、反ブッシュの投票を呼びかけたりもした。このアルバムにも宗教的な意味合いを持つ反戦ソングが収められている。 ニールの友人に言わせると「左翼の民主党支持だと思えば、次の瞬間には保守派なんだ。自分が相手をしているのがどちらのニールなのかまったくわからない。」そうだ。ニールは相変わらず訳の分からない男のようだ。
けど、ここで分かるのは彼は一貫して自分の思うように、自分の興味のあるものに対して動いてきたということだ。だから、このHarvestシリーズは、たまに保身に走るだとか、売れようとしているなどといった言葉は一切当てはまらない。これは単に、ニールにとって最も興味のあること事が、このHarvestシリーズで表されるような音なのだろう。最初のは20年振りに、この前のは8年振りに、そして今回、5年振りに、このHarvestシリーズで表されるような素朴な音をやりたくなったのではなかろうか。そう、カナダ人であるニールにとってこの音はごく自然なことなのだろう。 そんなことが自然と聞く人誰にでも伝わるから、ニールを批判する人はいない。だから僕は自由に好きなことをやっていくニールが大好きなんだと思う。この1曲目の歌詞を読んで欲しい

It's a long road behind me.
It's a long road ahead.
If you follow every dream
you might get lost.

僕の後ろには長い道
そして前にも長い道がある。
すべての夢を追いかけていたら
道に迷ってしまうかもしれないよ。
リラックスした雰囲気で歌い上げるこの歌。僕の後ろには長い道。40年のキャリア。そして彼はまだまだ進むことをやめないようだ。そして、「全ての夢を追いかけていたら道に迷ってしまうだろうよ」 これだ。40年間ありとあらゆるジャンルに手を出していつだって自分の赴くままに好きなように活動を続けてきた人の言うセリフだ。あなたは全ての夢を追っていないというのかニール。つい、笑って問いかけたくなるような、幸せな気分になれる。

そう、「彼の後ろには長い道。彼の前にも長い道。」
ニールにとってこれはしばしの休息であって、大草原の風のように素朴に自然に通り過ぎていくだろう。
そしてその先、彼がどこへ行くのかは誰にも分からない。ただ、長い道があるのだという。
もう大好きだ。是非買って是非聞いて。